Shinzoneスタッフのオシャレ遍歴を辿る本連載。ファッションへの愛と矜持を持って、お客様そして洋服と日々向き合う私たちのこだわりを公開します! 今回登場するのは、この秋リブランディングによって、より上質なカジュアルに進化したShinzoneを率いるディレクター兼デザイナーの染谷由希子。新たなブランドの世界を描き出す日々と、ものづくりへの情熱、そして自身のおしゃれの信条について。
「デザイナーになるにはどんな学びとステップが必要か」を逆算して過ごした高校時代
デザイナーになろうと思ったきっかけは、小学校2年生くらいの頃に読んだ漫画ですね。タイトルは覚えていないのですが、主人公が洋服のデザイナーを目指す話でした。当時すでに「自分が着る服は、自分で決めたい」と洋服に対しての執着みたいなものはありましたが、その漫画をきっかけに今度は洋服を作る方に興味がわき、デザイン画を描き始めました。
家族が洋服好きだったことも影響していますね。というのも、母が家庭科の教師で私の洋服を作ってくれたり、さらに当時大好きだったジェニーちゃん(着せ替え人形)の洋服を好きな生地で作ってくれたりしていたんです。またファッション誌が常に家のそこかしこにありましたし、家族についてハイブランドのお店にも小さな頃から出入りしたり.....。そうやって常に洋服を作ること、見ることが自分の身近にありました。もう、その頃からおぼろげに将来の夢はデザイナーだと思っていたはずです。
初めて洋服作ったのは小学校6年生の頃。まずはスカートを、そして中学生の頃にはワンピースを作りました。当時『CUTiE』とか『Zipper』といった雑誌に影響されて、自分で服を作ることがどんどん楽しくなりました。さらには忘れもしない中3の時、友人のお姉さんから『ELLE JAPON』を借りて読んだとき、こんなすごいファッションの世界があるのか!と驚いて。それをきっかけに今度は『ファッション通信』の大内順子さんのコレクションの解説が楽しみに。幼馴染も洋服が好きだったので「昨日のパリコレ、どこのブランドが好きだった?」なんて話したりしていました。また当時ロンドンコレクションで話題を呼んでいた「アレクサンダー・マックイーン」のショーに衝撃を受けたり……と、この頃に「もう自分は絶対にデザイナーになる」と決心。その流れから、将来フランスで仕事することを考えて、高校もフランス語が学べるフランス語学科がある学校に入学。高校時代はデザイナーになるには何が必要かを逆算して、勉強していました。
ボディテープ、メジャー、1/5縮尺定規、0.3mmのシャープペン。いずれも染谷がデザイン画を起こす際に欠かせないアイテム。
その後、文化服装学院で洋服作りの基礎を学んで卒業し、国内のメーカーに就職。後にドメスティックブランドから、コレクションブランドも手がける企業へと、転職しながらデザインについて勉強しました。一方独学でフランス語を勉強しながら、社会人3年目にフランスに留学。これが人生の大きなターニングポイントになりました。
パリで通った学校 Studio Berçot(スタジオベルソー)では、デザインを勉強したのですが、洋服づくりのプロセスはもちろん、どうやってデザインのインスピレーションを受けるかまで、さまざまなことを教えてもらいました。美術館がそこかしこにあるパリは常に芸術に触れられますし、ヴィンテージやブロカント(骨董品や古道具)がその辺に当たり前のようにあるのもよかった。古着を起点にデザインに起こすなど自分の知らなかった物づくりの発想の仕方をはじめ、先生たちも個性的で変わってたりと、とても大きな学びとなりました。
そんなパリでの学生時代には、靴のブランドとオートクチュールのブランドなどでインターンを経験しました。プレタポルテ(既製服)のブランドでも仕事しましたが、そこではオートクチュールブランド並みに手仕事がとても多くて。スモッキング刺繍ほか、こんな作業をしてみたいという作業の提案を沢山することができました。自分がわずかでも作業に関わった洋服がパリコレクションのランウェイで発表されたことは、大きな喜びでした。
帰国後も、パリに関わる仕事がしたいと、パリでコレクションを発表しているブランドを探して「TSUMORI CHISATO」へ入社。コレクションのショーピースを含めたさまざまな業務を担当させてもらっていました。技術的な面はもちろん、NEVER GIVE UPの精神みたいなマインドのあり方など、ここで教えていただいたことは本当に大きかったです。その後、ロンドンのコレクションブランドなどいくつか経験しました。まずはカットソー、ニット、布帛全てを担当させてもらい、さらにはその次のブランドでは、布帛のデザイナーを担当し、ジャケットとパンツのテーラリングについて学び、さらに次のブランドではワンシーズン全てのデザインを担当しました。……振り返ると、仕事しながら、毎日勉強させていただいたとても濃厚な日々でしたね。
1つのブランドに長年従事して生産やデザインを突き詰める方法もあったと思いますが、私はもっといろんなところで、いろんなことをやってみたかった。タイミングタイミングでいい縁をもらいながら得たインプットを、今度はここShinzoneでアウトプットできればと思っています。余談ですが、社長と私のファミリーネームが偶然重なったことにも縁を感じています(笑)。
本好きな染谷の本棚からの数冊。日本語、フランス語、好きな作家は言語に関係なく読む。「中学生の頃にチャールズ・ディケンスの『大いなる遺産』を根性で読破したことをきっかけに、長編も短編も好きになりました。とはいえ、本ばかり読んでいたわけではなく。学生時代は運動部に所属した体育会系です(笑)」。NYを舞台にしたポール・オースターの『オラクル・ナイト』ほか、捻くれているがブレない美意識が魅力的に映る魯山人など愛読書はさまざま。本と共に写っているのは、nextシーズンのテーマでもあるポルトガルを旅した際に手に入れた一輪挿しと、山梨で購入した鉱物。こうしたアイテムの色や質感が洋服作りのインスピレーションになることも。
普段の洋服は“シンプルだけど色気があるもの”を。
私自身のファッションとしては“シンプルだけど、色気があるもの”が好きですね。断然パンツ派です。子供の頃はトラッドなものを着せられることが多かったからか、自分で洋服を買うようになると反動的に、原宿系にはじまり、「マルタン・マルジェラ」、「ブレス」、「アンソフィーバック」……など力強いクリエイティビティを感じさせるデザイナーやブランドを色々着るように。今は一周して、その頃のトラッドに戻ってきた感じ。シンプルだけどひとクセある洋服が好きです。また、洋服がシンプルな分、バッグや靴はアクセントとなるものが好きです。長く愛用したいから、クオリティが良く、そしてやっぱりどこか色気があるデザインのものを選んでいます。
今は自分がデザインしたアイテムに長年愛用してきたものを組み合わせることが多いです。たとえば、20代前半で買ったシルクのキャミソールとか、高校生の頃に買ってもらった「ミュウ ミュウ」のバッグ、母から譲ってもらった「エルメス」の時計やスカーフなど。そうやって長年愛用できるようないいものに投資する、という家族の影響は受けているかもしれません。私自身もここ数年は消費される服を作りたくないという想いが強いので、Shinzoneでは「いい素材を使い、縫製も仕立てもきちんとした、長く着られるもの」を中心に作っていきたいと考えています。
「私の考える素敵な女性とは、自分のスタイルがある人。周りや流行に流されず、常に自分のスタイルを持っている人に憧れます。そういう意味で、アーティストであり作家のミランダ・ジュライはとても好き。ユーモアもあって、大胆。何より自分のスタイルがあるのが素敵ですね」という染谷が、この秋冬にデザインと素材をアップデートしたTHE SHINZONEの「WOOL DADDY SHIRT」に合わせたのは同じく、この秋冬に素材をアップデートした「CHRYSLER PANTS TYPE-2」。「Shinzoneはスタイリングを楽しんでいただく洋服がメインだからこそ、シャツやパンツといったベーシックアイテムのデザインにはとことんこだわりたいです」
自身がデザインしたTHE SHINZONEの「DOUBLE BREASTED PINSTRIPE JACKET」と 「DOUBLE CUFF PINSTRIPE TROUSERS」に「ドリス・ヴァン・ノッテン」のパンプスを合わせて。デザインのインスピレーションになるものは、旅行やアート、映画、そして小説だという。2024年秋冬コレクションのテーマもNYの作家フラン・レボウィッツのスタイルからインスパイアされたアイテムを展開している。
上で本人が着用している、ジャケットとパンツ、そしてこちらのTHE SHINZONE「WOOL CHESTER COAT」もフランからインスパイアされデザインしている。素材と仕立て、着心地そして、さらに限りなく黒に近い深いネイビーの発色にもこだわった。「大人の女性の日常に寄り添えるアイテムを作っていきたいです」
染谷の定番スタイルであるシャツ&パンツのコーディネート。「この秋は久しぶりに綺麗目のシャツが着たくなって。カフスを付け替えて楽しむ、という新しい提案もできたら」と作ったTHE SHINZONEの「DRESS SHIRT」。パンツは素材とシルエットをアップデートした「BAKER PANTS TYPE-3」。大人の余裕を感じさせるデザインに仕立てている。
新生Shinzone、こんなふうに着てもらえたら
Shinzoneでは自分がいいと思うものしか作りたくないし、何より自分が絶対欲しいものにこだわって作っています。その一方で、これまでのブランドのベースを変えることなく、アップデートすることによって年齢関係なく着ていただけるものを作りたい。これまでのShinzoneがお好きだったお客様には、ちょっとした進化……それは素材がより良かったり、着心地がより良かったり、仕立てがより良かったり。何より上質を感じてもらえるもの……みたいなものが、(そのお客様の)感性や感覚、価値観に響くといいなと願っています。また、素材や仕立てへのこだわりを深めたことをきっかけに、お客様にも素材や、ものづくりに興味を持ってもらえたら嬉しいですね。今シーズンから、Shinzoneは「デニムの似合う上品なカジュアル」から「デニムの似合う上質なカジュアル」へと進化しました。私の考える上質とは最高のデザイン。いろんな哲学、センスが集約され、全ての職人の知恵と哲学と経験が集約されて、作り上げられたものだと思っています。
デビューとなる2024AWコレクションで染谷が手がけたアイテムから。「THE SHINZONE & CO SILK SCARF」は、かつて展開していたアーカイブ商品のShinzoneロゴを抜き出して、ブランドのこれまでとこれからを絶妙にMIX。ネイビーのニットは、希少な織り機を用いて丁寧に編み上げた「EVERYDAY KNIT」。ニットとカットソーの中間的アイテムである“ニットソー”として大人の女性に毎日着てもらいたいとネーミングした今シーズンのマスターピース的なアイテム。そしてパターンとコットン&ウールによる素材にこだわり、抜群の着心地を実現したスウェット「COTTON WOOL SWEATSHIRT」は飛行機の機内など大人のあらゆるシーンに対応するリュクスなカジュアルアイテム。さらに環境に配慮した素材を用いつつ、抜群に履きやすいデニム「MARILYN DENIM」も大人のワードローブに加えて欲しい1本。
今は2025年のスプリングコレクションまで作り終わったところですが、スタッフやチームにも恵まれて楽しい日々。また Shinzoneはヴィンテージやセレクトと一緒にスタイルを提案できるのがこれまで経験したことがないので面白いです。そしてShinzoneは洋服だけでなく、カルチャーを発信するブランドだと思っているので、今後は、さまざまな角度から、いろんな発信・提案をしてみたいですね。
PHOTO : KAZUHO MARUO
HAIR & MAKE-UP : SAKIE MIURA
COOPERATION:KAORI KAWAKAMI
EDIT & TEXT : SHINZONE